【JP】田舎の一人暮らしを決めた隣人とフランス職人の家具 by Tomokoまたいとこのブログ (今月は不規則に発信）Blog de deux cousines, Chiyoko et Tomoko, Mataitokos' blog (Cousins' Blog) is published irregularly this month. 第 2 章2021 疫病は続く  4月の放談

田舎の一人暮らしを決めた隣人とフランス職人の家具

2021.04.06　by Tomoko

Eさんの新たな出発

私の住んでいる村で親しくしていた隣人が、ブルゴーニュ地方にある一軒家を買い取り、引っ越して行った。近所づきあいとはむずかしいもので、家で自分のしたいことに没頭するたちの夫や私にとっては、煩わしいことも多い。

しかし、彼女のように、なかには程よい関係が心地よく思われる隣人もいる。離婚したEさんにはスイスに住むやはり離婚している彼氏がいて、ときどき彼女のアパートに来たり、一緒に旅行したりしていた。

二人のなれそめは、彼女がジュネーブ駅の構内にあるパティスリーショップの店員で、そこでは美味しいパンも売っているので、スイス鉄道の電車の運転手だった彼が、よく立ち寄っていたことかららしい。駅という所は、こんな美しい出会いがあるところである。

Eさんの住んでいた二階にあるアパートの窓からは、谷間状の野原が前面に広がり、背景にはジュラ山脈が一望できる。Eさんは、定年になってから数年たつ今、この集合住宅を売り、集落の家に移った。

自然が大好きで、土いじりがどうしてもしたく、その夢をついに叶えた。女性一人の凄い迫力である。彼氏とも車で三時間くらいもかかる距離ができる。彼氏には100歳近いのに別に住んでいるパパがいて、面倒をみてあげなければならないから、近くにいてあげる必要がある。人生複雑である。

ちょっとした言葉を伝えるのが好きなEさんから、満足そうなメールや電話がかかってくる。集落は家が離れ離れではあるが、人びとの新参者への好奇心や関心が日々、伝わってくるらしい。

ブルゴーニュ地方のEさんの新しい巣

いつか読んだ宇野千代作『幸福』で、女が70過ぎてまだ家を建てている、と言われた話を思い出した。多才奔放で、家を11軒立てた経歴を持つ宇野千代さんの人生遍歴は破格である。Eさんも凄い。人に頼ったり、年齢に拘わったりせず、60代後半自力で着々と夢を実現したEさんに脱帽。女性平等指数が世界で12１位という、どこかの国では、女性の自立はむずかしい。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

フランス家具職人の箪笥

そのEさんは、引っ越しにあたり、家具のいくつかを譲ることにした。私の友人で間もなく定年退職することになっている女性が、定年後、自宅の部屋のいくつかを間貸しして生計の足しにしようとしており、洋服ダンスが必要なので探していることを思い出した。買い取ることに興味があるか、提案してみたところ、見に来た友人は家具に一目ぼれし、話がとんとん進んですぐに売買が成立した。Eさんは儲け心がなく、こんなに安価で売っていいのかと思ったぐらいである。

職人づくりの美しい家具

素晴らしいのは、1.5ｍ x 60cm x 2ｍのこの彫刻の飾り入りの美しい箪笥が、ねじもほとんどない、組み立て式であったこと。板にほぞをほり、もう一枚を差し込むしかけになっており、天板を上に向け外すと、本体の板が四方に自然に外れる仕掛けになっている。後ろの板も、上下半分ずつが、差し込んであるだけであった。それぞれの板の切り込みの正確なこと。実にかっちりと丈夫にできている。

Eさんのアパートでは、彼氏のPさんが解体を主導、友人の家では、息子さんも交え、3人で思い出しながら、元どうりの組み立てに成功。大きい家具なので、少し大変だったが、上等な木製のこの古いが大切に使われていた家具が、新たにまた役に立つことがなんとも嬉しい。

裏側に、大きな楕円形に囲まれたサインがしてあり、当家具がGexと呼ばれるこの地域の昔の家具職人の作品であることが証明されている。この職人の名は、私たちの住む村の女性作家で、地域の歴史や文化についての著書を遺した、Madame Anne-Marie Prodonの本に出て来る。Madame Prodon は数年前に亡くなられたが、彼女の最後まで面倒をみていたポルトガル人Luciaも、癌になり、Covidにも罹り、1月に急死してしまった。我が家にも手伝いに来てくれていた、この親しく思っていた若い女性が突然消えてしまったのは、ショックである。人生には、物や出来事を通して、いろいろなところで、人との縁や繋がりがある。すべての人はどこかで繋がっている。世界中の問題も然り。（Tomoko）